Spirits(スピリッツ)
ウイスキー
ウイスキーは大麦やライ麦、トウモロコシなどの穀物を発酵、蒸留した後、樽で熟成して作られるお酒です。その語源は、スコットランドの現地語「ウスケボー」(生命の水)であるとされています。ブランデーやウォッカも、その語源は「生命の水」を意味する現地の言葉からきており、お酒に対する意識の深さがうかがえます。
さて、このウイスキー、現在の主な生産国はイギリス、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本の5カ国ですが、それぞれに原料や製法が異なり、さまざまな風味のウイスキーを作っています。まず、世界を代表するイギリスのスコッチ・ウイスキーは、大麦を発芽させた大麦麦芽を発酵、蒸留した後、樽で熟成したモルト・ウイスキーと、大麦やライ麦、その他の穀物からつくられたグレーンウイスキーをブレンドして作られています。アイルランドのアイリッシュ・ウイスキーと日本のウイスキーは、大きく分けるとこのスコッチタイプのウイスキーになります。
これに対して、アメリカとカナダのウイスキーは主原料にトウモロコシやライ麦を使う製品が多いのが特徴です。独特の風味のある、アメリカを代表するバーボン・ウイスキーはケンタッキー州で生産されており、原料の51%以上をトウモロコシとします。一般に「バーボンは焦げくさい」といわれますが、これは蒸留されたウイスキーを、内側を焦がしたオークの樽で熟成するためです。また、カナディアン・ウイスキーはトウモロコシを原料とするウイスキーとライ麦を原料とするウイスキーをブレンドして作られています。世界中のウイスキーの中で最もライトな風味のものです。
ブランデー
ブランデーとはフルーツを発酵、蒸留したお酒すべての総称ですが、一般的にはブドウを原料としたブランデーのみをいいます。この狭い意味でのブランデーは、簡単に言うとワインを蒸留した後、樽で熟成したものです。したがってワイン生産国であれば、ヨーロッパを中心に西アジア諸国やアメリカなどでもブランデーを生産しています。しかし、代表的なものとなればやはりフランスでしょう。中でもコニャック地方のものと、アルマニャック地方のものは世界を代表する食後酒として名高いお酒です。いづれも品質を保証するため、フランス国内法により、原料となるブドウの品種、生産地域、蒸留方法や樽熟成の年数などが厳しく定められており、規定を満たさないものはコニャック、アルマニャックとは呼ばれません。コニャックはフランス西部のコニャック市を中心とした2つの県で作られており、繊細な味わいで高貴な香りがします。アルマニャックはフランス南部、ピレネー山脈に近い3つの法定区域で作られており、コニャックに比べブドウ本来の味を生かしたフルーティな風味で香りも強いのが特徴です。
その他のフランス国内で作られるブランデーは、フレンチ・ブランデーと呼ばれ、それぞれの地域性が出ています。また、ブルゴーニュやシャンパーニュなど、ワインの主な生産地ではワインの絞りかすを原料とするマールという強く深い味わいのブランデーを作っています。
ぶどう以外を原料とするものには、リンゴから作られるアップル・ブランデーやサクランボを原料とするキルシュ、洋梨を原料とするポワールなどがあり、それぞれ素材の風味が生きています。
ちなみに、カクテルの材料としてよく使われるチェリー・ブランデーやアプリコット・ブランデーはリキュール類で、ブランデーとは違うものです。これらのリキュールにブランデーの名がついているのは、アルコール度数と風味を高めるために、製造の過程でブランデーを加えることからきています。
ジン
ジンはそもそも17世紀中頃、オランダの医師によって熱病の薬として開発されたものでした。しかしこれが思わぬことに爽やかな風味のアルコール飲料として評判となり、香りの主原料であるジュニパー・ベリー(杜松の実)から「ジュネバ」と呼ばれ、人々に飲まれていました。これが英国に渡ると英語風にジンと呼ばれ、ここでも爆発的に流行。時代の機械化とも相まって生産量も増え、現在のドライ・ジンと呼ばれるドライで風味の軽いものや、甘口のオールド・トム・ジン、果実の香りをつけたフレーバード・ジンなどの製品が次々に生まれ、アメリカを始めとして世界中に広まりました。
ジンの製法はタイプによって異なります。ドライジンの場合、大麦やライ麦、その他の穀物を発酵、蒸留した高アルコール度のスピリッツを作り、それにジュニパー・ベリーを中心にコリアンダー、カルダモン、オレンジやレモンの皮など数十種の香味材料を混ぜ合わせて再び蒸留します。この時の香味成分の配合比率によって、香りの強いもの、ドライで切れ味のよいもの、甘口で豊かな風味のものなど、様々なジンが生まれます。
また、現在でもオランダで製造されているジュネバ・ジンは、麦や穀物と香味材料を一緒に蒸留して作ります。ドライ・ジンに比べ香りが強く、原料の穀物の風味が残った素朴な味わいのお酒です。この他、ジンにはドイツで作られるシュタインヘーガーや、ジュニパー・ベリーのかわりにスロー・ベリーを使った甘いスロージンなどがあります。
ウォッカ
ロシアを代表するお酒「ウォッカ」は、古く12世紀頃から飲まれていたという記録があります。当時の原料、製法は詳しくはわかっていませんが、生産技術などを考えると今のものに比べ、雑味が多く、また香草等で香りづけをしていたものと思われています。この長くロシアの国民酒であったウォッカが国外で生産されるようになったのは1917年のロシア革命の際、白系ロシア人の製造業者達が国外に逃れ、各地で同様のお酒を生産するようになったことによります。このようにして広まったウォッカは、1940年代に入るとその風味のおとなしさからカクテルのベースとして盛んに使われるようになりました。さらに1950年以降には、フルーツジュースとミックスする飲み方がアメリカ西海岸で大ブームとなり、人気に拍車をかけました。今やウォッカはロシア、アメリカを始め東欧や北欧で作られ、ウイスキーやジンをはるかにしのぐ生産量を誇っています。
そのウォッカの原料はライ麦やトウモロコシなどの穀類やジャガイモなどです。この原料に麦芽を加え発酵した後、蒸留して85度以上の高アルコール度の蒸留酒を作ります。これに水を加え、白樺の炭などからつくった活性炭の層でゆっくりろ過して精製します。この過程でウォッカは無色透明、雑味のないクリアな風味を生み出すのです。一般にウォッカはろ過回数が多く透明度の高いものほどよいとされていますが、多くの銘柄の中には原料の風味を残し、かすかに黄色い色をした豊かな味のものもあります。ストレートで味わうにはこのようなタイプも好まれています。またウォッカには、バッファローグラスという香草の一種を漬け込み、香りと色を浸出したズブロッカや、レモンなどの果実の香りをつけたフレーバードウォッカなどがあります。
ラム
ラムはサトウキビの産地である西インド諸島で生まれたお酒です。中南米や西インド諸島の多くが、中世から近代にいたるまで西欧諸国の植民地だったことから、ラムの起こりも、カリブ海に浮かぶバルバドス島という島にイギリス人が蒸留技術を伝えて作られ始めた、という説が有力です。現在でも、ラムの生産地はジャマイカ、キューバ、プエルト・リコ、ガイアナなどですが、欧州の会社が販売を手掛けている銘柄が多くあります。
それぞれの地域で生まれるラムには多様な風味がありますが、一般的には出来上がりの色により透明のホワイト・ラム、黄金色のゴールド・ラム、褐色のダーク・ラムに分けられています。ホワイト・ラムはサトウキビの持ち味を残した自然な甘味とライトな風味のお酒です。製法としては、まずサトウキビから砂糖をとった後のモラセズと呼ばれる糖蜜に酵母を加え、発酵、蒸留します。これをタンクや樽に短期間貯蔵した後、活性炭でろ過して雑味を取り除き、無色透明のラムに仕上げます。ゴールド・ラムは樽熟成して香りと色をつけたもので、ホワイト・ラムとダーク・ラムの中間的な風味です。ダーク・ラムはジャマイカ産のものが特に有名で、ジャマイカ・ラムとも呼ばれます。これは糖蜜を数日間おいて酸発酵させ、蒸留の時にパイナップルやアカシアの樹液を加えるなど、他のラムと違う製法をとります。また、蒸留後は内側を焦がしたオークの樽で数年間熟成して出荷されるため、若干の酸味と強い香りが特徴です。
テキーラ
テキーラはメキシコで作られる蒸留酒です。つい30年程前までは、消費の大部分がメキシコ国内というローカルなものでした。それが1968年、メキシコ・オリンピックの際、訪れた多くの人々がテキーラを使ったカクテルを飲み、世界でその名の知られるところとなりました。中でもマルガリータは大人気となり、その後のトロピカルドリンクブームと共にテキーラは6番目のスピリッツとして定着しました。
一般に、テキーラはサボテンから作られているといわれていますが、これは誤りで、正しくはアガベ・テキラーナという竜舌蘭の一種を原料としています。この植物の8年から10年成長した直径約80cm、重さ30~40kgにもなる太い茎を蒸し、発酵、蒸留して作られています。
テキーラもラムと同じように、ホワイトまたはシルバーテキーラと呼ばれる無色透明のもの、数ヶ月樽熟成をして黄金色になったもの、また数年間の樽熟成をして褐色になったものの3種類があります。
ホワイトテキーラは蒸留後、活性炭でろ過した、シャープで強靭な風味を持っているお酒です。これを2ヶ月以上樽で熟成したものがゴールドテキーラです。樽の色と香りが移り、薄黄色から黄金色になっています。さらに、法的には1年以上、一般に販売されているもので長期熟成されているものでは10数年も寝かせたものをテキーラ・アホネ(古いもの)と呼んでいます。長い熟成の間にテキーラらしい清冽さはなくなり、ブランデーのようなまろやかな味が生まれています。
また、テキーラはメキシコのハリスコ州テキーラ村を中心とした法定区域内で栽培した原料を使ったものだけに称することができる名前です。このほかの地域で作られたものはメスカル(竜舌蘭からつくられた酒の総称)と呼ばれています。